リオ五輪代表ではライバルと切磋琢磨
4年前のロンドン五輪直前にも、当時18歳だった奈良はいわゆる「飛び級」で関塚隆監督(現ジェフ千葉監督)に率いられたU‐23代表候補に一時名前を連ねた経験をもっている。
それだけ能力は高く評価されていたが、今夏のリオデジャネイロ大会を逃せば、あとは年齢制限のないオーバーエイジでしか五輪出場のチャンスはない。一生に一度の機会だからこそ、奈良の思い入れも強い。
「僕にとっては大事な活動のひとつですし、自分たちがしっかりプレーする姿で(熊本地震の被災者を)勇気づけて、希望を与えるという意味でも非常に大事な試合だと思っています。加えて、一人ひとりがオリンピックへ向けてアピールする場でもあるし、僕自身にもライバルがいるので」
開幕前の芳しくなかった下馬評を覆し、23歳以下のアジア王者という肩書とともに五輪切符を勝ち取った今年1月のU‐23アジア選手権。奈良は劇的な勝利でリオ行きを決めたU‐23イラク代表との準決勝を含めて、6試合中で3戦に先発フル出場を果たしている。
もっとも、大会を勝ち抜く上で最も重要となるU‐23北朝鮮代表とのグループリーグ初戦のセンターバックは、奈良をしてライバルと言わしめる植田直通(アントラーズ)と岩波拓也(ヴィッセル神戸)が務めた。
奈良の立ち位置は、この時点ではおそらく3番手だったかもしれない。しかし、ファーストステージの開幕以降で積み重ねてきた濃密な経験が、22歳の若武者を力強く変貌させている。
「成長している、という実感はあまりないというか、何が充実していたかということを含めて、そういうものは(シーズンの)最後に感じるものだと思うので。僕はその瞬間に自分がもっている最高のパワーを出すことを、ずっと積み重ねてきました。
本当に1日1日を、1試合1試合を必死に戦いながらもがいている感じなので、これまでを振り返る余裕は僕にはありません」
植田も岩波も、所属チームではフルタイム出場を続けている。いま現在のパフォーマンスや数字に満足したら、成長曲線は横ばいを描くか、あるいはマイナスに転じるだろう。危機感と飽くなき向上心を胸中に同居させながら、サムライの無骨さすら漂わせる奈良のチャレンジは続く。
(取材・文:藤江直人)
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