出場機会が少ないなかで届いた川崎からのオファー
マッシモ・フィッカデンティ監督(現サガン鳥栖監督)に叩き込まれたサッカー観とは、おそらくは1対0の勝利に究極の美学を求める、イタリア人特有のメンタリティーのことを指しているのだろう。
日本代表選手も森重だけではない。昨シーズンのFC東京からはDF丸山祐市、DF太田宏介(現フィテッセ)、FW武藤嘉紀(現マインツ)たちがハリルジャパンに名前を連ねていた。
ポジションがほぼ約束されていたコンサドーレから一転、指揮官の要求を理解し、日々の練習で答えを出していく重要性を痛感。再出発を誓った直後に届いたのが、フロンターレからのオファーだった。
しかも、期限付き移籍ではなく完全移籍で。奈良は強い意志のもとで、移籍を決断する。
「去年あれだけ試合に出られなかったなかでも、自分に声をかけてくれた。攻撃的なチームのなかで守備を強くしたいというフロンターレの思いにやりがいを感じましたし、僕自身もフロンターレというチームのなかで自分に足りない攻撃的な部分を伸ばせるのではないかと考えた。
自分の守備力をチームに生かし、そのなかで自分も攻撃面で成長できるという関係を上手く築けるという思いもあって、移籍を選びました」
サンフレッチェ広島との開幕戦から、センターバックのポジションを獲得。コンビを組む相手が谷口彰悟からエドゥアルドに代わるなかで、奈良は手応えと課題を自身の思考回路に同居させてきた。
「試合に出させてもらっているなかで、試合勘や自分の間合いというものは徐々に戻りつつありますね。こういったものは試合に出てこそ得られるものだし、自分としては去年と同じ経験は一度だけで十分と思っているので。としかく、今シーズンは試合に出るということをまず意識しています」
サンフレッチェの佐藤寿人。名古屋グランパスのシモビッチ。鹿島アントラーズの金崎夢生。サガンの豊田陽平。古巣FC東京の前田遼一。そして、ガンバの宇佐美貴史――。テクニックと力強さ、そして経験とさまざまな武器をもつストライカーと対峙する瞬間が、奈良のなかで燻っていた能力を覚醒させる。