イタリア人指揮官のもとで学んだ新しいサッカー観
しかもフル出場で、ガンバ攻撃陣を零封した。痛み止めの麻酔を打っているものの、本人はまったく問題ないと強調する。骨が見えていたのに大丈夫なのか。奈良は何事もなかったかのように振り返る。
「骨に近く、(筋肉が)薄いところだったので、確かにトレーナーの方が『骨が見えていた』と言っていました。当然のことですけど、普通にプレーできなければ試合に出ません。
ただ単に試合に出たいという思いだけでは自分だけの感情になってしまうけど、自分のなかで『骨が見えていても別に問題ない』という感覚があったので、監督には『やれます』と言いました。
チームに貢献したかったし、監督が僕を使うという方向でいってくれるのならば期待にも応えたかった。僕自身、怖さはまったく感じていません」
治療はレッズ戦後のロッカールームで10針縫っただけ。病院にも行っていない。その後も先発フル出場を続ける奈良は、11試合を終えた段階で、MF中村憲剛に次ぐ出場時間965分を記録している。
コンサドーレ札幌ユースに所属しながら、2種登録選手としてJ2でデビューしたのが2011シーズン。翌年のトップ昇格から描かれてきた順風満帆な軌跡が、昨シーズンは急停止を余儀なくされた。
日本代表DF森重真人をはじめとする実力者がひしめく、FC東京への期限付き移籍。さらなる成長を目指し、慣れ親しんだ札幌の地を後にしたが、待っていたのはリーグ戦出場ゼロという現実だった。
公式戦で出場したのはナビスコカップ2試合、天皇杯1試合のわずか3度。シーズン終了とともにコンサドーレへ復帰した1年間を、奈良は決して無駄な時間ではなかったと受け止めている。
「イタリア人監督のもとで、新しいサッカー観というものを学ぶことができた。戦術うんぬんではなくて、何て言うのかな……一人の人間としてのサッカーに対する考え方といったものを教えてくれた、本当に素晴らしい監督でした。
日本代表でもセンターバックを務める選手と一緒に練習できた日々は、自分にとって素晴らしい経験にもなりました。プレーに関しては映像を見ていれば得られるものがありますけど、試合に対するアプローチや準備、日々の練習に取り組む姿勢といった部分は一緒に練習しなければ得られない。FC東京での1年間は、いま現在の僕の財産になっていると思います」