「楽しくないサッカー」を上回った義務感
香川は、回しても回しても崩せる気がしなかったが、回しに回された長谷部はさすがにしんどかったという。
「いやぁ、しんどいですけどね。やっていても、楽しいかといえば全然楽しくはないサッカーですし。とにかく、ボールに触る回数もほとんどなかった。その中でも、横にスライドする動きとか、前に出る動きとか、後ろに下がる動きとかを、とにかく繰り返す。それだけの、すごく地味なプレーをしなければいけなかったので」
香川が「極端に割り切ってダイアゴナルのパスをもっと、それだけをやり続ければ相手がついて来られなかったのかなあという気はする」と振り返るように、ひたすら「真ん中を閉めて」守るだけでは、いずれフランクフルトは決壊していただろう。
しかし長谷部たちの中には、いつもとは違う義務感のようなものがあった。
「ただ、こういう残留争いのなかではそういうもの(楽しくないサッカー)をやって、勝っていかないと、残ってはいけないのかなというのは感じています」
1部に残っていくためには、なりふり構ってはいられない。恥も外聞もかなぐり捨てる必要がある。
後半にドルトムントは決定的なチャンスを迎えることなく、最終的に0-1で敗れた。
香川が長谷部たちの固い守備=執念に苦しんだ、フランクフルト戦だった。
(取材・文:本田千尋【ドルトムント】)
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