強化部が出席する経営会議
いわゆる「名」よりも「実」を取った補強は、毎週水曜日午前8時から行われる運営会社、アビスパ福岡株式会社の経営会議と密接に関連している。
出席を義務づけられているのは部長クラス以上。そのなかには、井原監督の横浜マリノス時代の盟友で、ほぼ同時期に強化部長に就任した鈴木健仁氏も含まれている。
現場を預かる強化部のトップが経営会議に出席するのは、Jクラブにおいて稀有なケースと言っていい。その意図を川森社長は「クラブの財政状況をともに把握してほしいとので」と説明する。
ときには午後1時すぎまで続く経営会議を介して、PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)上におけるクラブ内のキャッシュフローを強化部も共有。金銭面を踏まえて新戦力候補をリストアップした結果が、オフの補強となった。
福岡市に本社を置くシステムソフト社が約1億円を出資して、約2800万円に膨らんでいた債務超過を解消。アビスパがJリーグ退会危機を回避させたのは2014年9月だった。
そして、クラブ経営をさらに安定させるために、システムソフト社の親会社であるアパマンホールディングスから取締役として川森氏が経営に参画し、昨年3月には社長に就任した。
所信表明で「地に足の着いた経営」を公言した、川森社長のもとで進められてきた経営改革。FC東京戦の前日にはアビスパ福岡株式会社の株主総会が開催され、2015年度の収支決算で純利益が前年度から3900万円増となり、2期連続の黒字となる4800万円となったことが報告されて承認された。
クラブの存亡危機から一転、ようやく増収増益路線を歩み始めたからこそ、無理をして「背伸び」をすることはできない。クラブ全体で立ち位置を共有しているからこそ、補強を最低限にとどめ、既存の戦力を底上げするスタンスで臨んだファーストステージだったわけだ。
果たして、FC東京戦では開幕戦と第2節で出番のなかったダニルソンが、パワフルな存在感を放つ。左MFとして起用された為田は得意のドリブルからタメを作るなど、攻撃面でアクセントとなった。
後半41分からはDF濱田水輝を投入。3バックへスイッチするとともに、途中出場していた元日本代表のFW前田遼一のマンマーク役に濱田を指名して、井原監督はゲームを締めにかかった。
「隙を与えない、ということも選手たちには強調していた。せっかくいい守備をしても、これまでのゲームでは一瞬のところで失点をして、惜しいゲームで勝ち点を落としてきたので」