戦術的規律とテクニックの相乗効果
バルセロナという極端にボールポゼッションに長けた相手と対峙した準々決勝では、アトレティコはプレッシング中心の戦術を採用した。しかし、CLラウンド16までの試合では、バルサ戦とは全く異なるサッカーを展開していた。
図2はCLラウンド16ファーストレグ終了時点の数字をもとに分類した図表である(延長戦があったことで試合時間にばらつきが出るため、セカンドレグは対象外とした)。庄司氏が「コンセプトマップ」と呼ぶこの図表は、縦軸にパス成功数を、横軸に走行距離をとったもので、各チームのコンセプトを4分類している。アトレティコの立ち位置は右上の「ボールも人も走るチーム」。走力だけでなくテクニックの面でも優れたチームだと言える。
「ラウンド16までの試合だと、アトレティコはむしろボールを持っている側のチームなんです。彼らはボールを持つ側になっても、持たれる側になっても力を発揮することができる。
普段ボールを持てるチームがボールを持てなくなると、選手が集中力をなくしてしまったり、じれてしまったりしてチームとしてのバランスを崩してしまうことがあります。しかし、アトレティコにはそれがない」
ラウンド16までの8試合で、アトレティコの選手たちがパス成功1本あたりで走った距離は平均244m。対して準々決勝のバルサ戦2試合では、1stレグで666m、セカンドレグでは939mとなった。この数字はアトレティコの選手たちが、いかに味方からのパスをもらえていないかを示しているが、庄子氏は、アトレティコの選手たちがそうした状況のなかでも規律を破綻させていなかったと指摘する。
「以前、シメオネがインタビューで『私にとってポゼッションはライバルを快適にするもの』と発言しているのを読んだことがあります。これは本当にそうで、アトレティコはボールを持つことはできるけど、ボールポゼッションを必要なものとしていない。ボールを相手に渡してしまうゲームプランも遂行できるんです。
忘れてならないのは、アトレティコは決してボールを持っているときのプレー精度が低いチームではないということ。だからこそ高いポジションでのプレッシングが活きてくる。奪ったボールをすぐに失っていたら元も子もないですから」