ホーチミン市民のドライなサッカー感情を変えられるか
実を言えば、ハノイのクラブがホーチミンに移転するのはこれが初めてというわけではない。同様の経緯で移転してきたクラブとしては、サイゴン・ユナイテッド、ナヴィバンク・サイゴンがある。
しかし、いずれも解散や活動停止などで長くは存続しなかった。効果的なマーケティングで人気を博したサイゴン・スアンタインも活動期間僅か3年で解散。人々はホーチミンのサッカークラブに失望感を抱くようになった。
ここから重要なのは、いかにクラブを地域に根付かせるかだが、これには課題が山積している。そもそもハノイにせよホーチミンにせよ、地方出身者が多いため、クラブ人気はお世辞にも高いとは言えない。
ハノイT&Tを例にすると、2季連続で2位という好成績を残し、現役A代表選手を多く擁しているにもかかわらず、ホームの1試合観客動員数は4000人にも満たない。これは観客動員数トップのタンクアンニンの半分以下の数字だ。
サッカーに対しドライになっているホーチミンのファンを惹きつけるのは簡単なことではない。サイゴンFCは、今回の移転に伴い、クラブ運営会社の増資および公開会社化を発表。増資により資本金は250億ドン(約1億2500万円)から1000億ドン(約5億円)に拡大した。
資本金のうち、70~75%は大手企業スポンサーからの出資。残る25~30%を譲渡可能な株式として発行し、ファンやサポーター向けに販売する。サポーターが株式を購入できるようにすることで、地元クラブへの関心を高めたい考えだ。
サイゴンFCのグエン・ザン・ドン会長は、4月17日に開いた移転お披露式典で、「ホーチミンサッカー界は過去の不幸な失敗の数々から貴重な教訓を得た。はじめは我々が市民の信頼を得るのは難しいだろう。しかし、サイゴンFCがフェアプレー精神を持ち、美しいサッカーをすれば、かならず人々に受け入れられると信じている」と語った。
なお、移転後初の公式戦となったVリーグ第6節QNKクアンナム戦は、新ホームのトンニャットスタジアムのゴール裏とバックスタンド席を無料開放。結果は残念ながらスコアレスドローとなり、サイゴンFCとしてのホーム初白星は次以降にお預けとなった。
(取材・文:宇佐美淳【ベトナム】)
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