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ベトナムでシーズン中にクラブ本拠地が移転。前代未聞の事態の背景には豪腕オーナーの存在が

text by 宇佐美淳 photo by Jun Usami

背景にある豪腕オーナーの存在。八百長の懸念も

 前置きがかなり長くなってしまったが、ここからはハノイFCのホーチミン移転を少し分析的に見ていきたい。第一に、ハノイには、国内屈指の強豪ハノイT&Tと昨季2部で優勝して今季1部に昇格したばかりのハノイFCという、二つのクラブがあったのに対し、ホーチミンには1部クラブが存在しなかった。国内最大の経済都市であるホーチミンは、市場的には非常にポテンシャルが大きいにもかかわらず、である。

 また、ハノイFCはもともとハノイT&Tと同じく複合企業T&Tグループ総裁のドー・クアン・ヒエン会長の保有クラブだった。そのため、2012年には2部で準優勝して昇格条件を満たしたものの、同一オーナーのクラブが1部に2クラブ以上存在することになり、昇格が見送られたことがある。

 なお、2013年からはグエン・ザン・ドン氏が代表を務めるハノイサッカー株式会社がハノイFCを運営してきたが、ドー・クアン・ヒエン会長も依然としてスポンサーに名を連ね、存在感を放っている。

 こうした背景からハノイの2クラブは関係性が強く、選手間の行き来も非常に多いため、ハノイFCは現在、ハノイT&Tの2軍のような顔ぶれで構成されている。せっかくのハノイダービーもこれでは紅白戦のようになってしまい、サポーター目線で見ても盛り上がりに欠ける。

 因みに、リーグ優勝したこともある1部の強豪SHBダナンの親会社は、T&Tグループの金融部門であるサイゴン・ハノイ商業銀行(SHB)。つまり、ベトナムにはドー・クアン・ヒエン会長の息のかかったクラブが3つ存在する。

 ハノイFCを南部ホーチミンに移転させることで、国内3大都市(ハノイ・ホーチミン・ダナン)すべてに1部クラブを持ったことになる。同一オーナーが複数のクラブを間接的にでも所有することについて、八百長を懸念する声もあるが、それぞれの運営組織が独立しているということでリーグ規定違反にはなっていないという。

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