監督は会長の傀儡に。“影の監督”として現場に介入
「そして、そもそもミハイロビッチという選択も、自分の傀儡として使うためにベルルスコーニが希望したものだった(同記者)」というのだ。当初ミランはガッリアーニ副会長の主導で、エンポリを指揮していたマウリツィオ・サッリの招聘を検討していたことは報道で明らかになっている。
だが、ベルルスコーニはそれを止めた。同監督が地元メディアのインタビューで「自分は左派である」と発言したこと(注:ベルルスコーニは中道右派政党の党首)、そしてスーツではなくジャージ姿でベンチに座る同監督のファッションを嫌ったというのが理由だと地元では囁かれている。
その代わりに白刃の矢を立てたのが、中堅の実績はあるがビッグクラブでの指導経験はなかったミハイロビッチだったということだ。もっとも、これは完全な見込み違いだった。現場で強烈なリーダーシップを発揮し、練習にも実戦にも真剣な鬼軍曹が、クラブトップの身勝手な現場介入に耳を貸すわけはなかったのだ。
「政治家もやり、歳を取った彼には、クラブの会長としての才覚は失せたということなのだろう」。ファビオ・カペッロやカルロ・アンチェロッティの時代からチームを見つめてきたエンリコ・クロー記者は言う。
「ミランの伝統は美しいプレーだというけれど、カペッロやアンチェロッティの時代は大勢のタレントの力で決まったようなものだ。それに戦術と言ってもね。実際、アンチェロッティ監督はCLで実質4-4-1-1のサッカーをやらせていた。マヌエル・ルイ・コスタやカカーを、トップ下ではなく右サイドに貼らせて守備をさせていたんだ。ちょうどミハイロビッチが、本田にサイドをやらせていたのと同じことだ」
ミハイロビッチが4-3-1-2を捨て4-4-2に切り替えたのは、何よりサイドの守備が成り立たないからだった。そういう現場のリアリスティックな判断を切り捨て、ベルルスコーニはセリエAでの指導経験がないブロッキに再び4-3-1-2を課そうとしている。
現場を立てる思いやりも、現状を分析する聡明さも伴わない名誉会長の愛情は、ミランをどこへ連れて行くのか。13日の会見中、新監督の表情は終始緊張していた。
(取材・文:神尾光臣)
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