「名波さんは見捨てる人じゃない」(森下俊)
現役時代に天才レフティーとして日本サッカーの歴史に名を刻んだ名波監督は、ピッチ上に数々の芸術を描いてきた。一本のパスで局面を変え、ゴールに結びつけた。背番号7の頭の中には常に明確なビジョンがあり、それを左足で表現することができた。指導者となった今、名波監督は自身のビジョン=考えを選手たちに伝え、持っている力を最大限発揮させようとしている。戦術家としてはもちろん、モチベーターとしての顔も覗かせる。
4節の福岡戦で、森下俊がベンチ外となった。大井健太郎と共に最終ラインを統率するCBがメンバー入りすらしなかった。これには名波監督の森下への信頼が隠されている。
「俊は全体的に悪くないけど、1年間通してJ1で戦ったことがまだない。年間通して戦おうということを本人と話している。俊は(1節から3節までに)シモビッチ、ズラタン、ディエゴ・オリヴェイラと屈強なフォワードを相手にしていて、弾かれる回数も多かった」
指揮官は森下に対し、高いパフォーマンスを維持することを求めている。福岡戦までにJ1トップクラスのFWと激しいバトルを繰り広げたことで、思った以上にダメージがあった。仮に福岡戦に出場していれば、絶え間ないラインコントロールと貪欲なファイトでチームを助けていたはずだが、ここで休ませることで心身ともにリフレッシュした状態でその後のリーグ戦に臨んでほしいという狙いがあった。
「名波さんは見てくれているし、見捨てる人じゃない」と、森下自身も指揮官の細やかな気遣いを意気に感じている。
そして、福岡戦でベンチ外を経験した選手がもう一人いた。それは、上田康太だ。
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