ターニングポイントとなったリオ五輪最終予選
鹿島アントラーズの最終ラインにそびえるU‐23日本代表DFの植田直通はいま、不思議な感覚のなかでプレーしている。
「どの試合に出ても、余裕をもって前が見えていると自分でも思っている」
視覚を通して飛び込んでくる情報の、量も質も変わった。簡単に言えば、自身の目に映るピッチ上の光景が変わったと感じたのは今年2月に入ってからだった。
ターニングポイントには当たりがある。今回ばかりは無理だろう、という芳しくない下馬評を鮮やかに覆し、リオデジャネイロ五輪切符に23歳以下のアジア王者の肩書を添えるまでの約1ヶ月間の日々だ。
U‐23アジア選手権が開催されたカタールへ飛び立ったのが1月2日。文化も習慣も気候もまったく異なる地で、決勝までの6試合のうち、延長戦ひとつを含む5試合、計480分に先発フル出場を果たした。
そのなかには自ら叩き込んだゴールを死守した北朝鮮代表とのグループリーグ初戦もあれば、後半アディショナルタイムの劇的なゴールで難敵イラク代表を下し、リオデジャネイロ行きを決めた準決勝もある。
2点のビハインドを背負いながら決して下を向かず、チーム一丸となって逆転勝利をもぎ取った韓国代表との決勝を含めて、すべての瞬間が血肉になったと植田は振り返る。
「やっぱり最終予選。あの試合を戦ってきたことで、余裕ができたのかなと思います」
コメントのなかに出てくる「余裕」を「自信」に置き換えても、意味は十分に通じるだろう。深夜の羽田空港に凱旋帰国した1月31日。肉体的にも精神的にもすり減っていた状態を心配したアントラーズのスタッフに、植田はこんな言葉を返している。
「オフはいりません。自分は若いので、休む必要はないと思っています」
言葉通りに、一夜明けた2月1日にはアントラーズがキャンプを張っていた宮崎へ移動。2日にはロアッソ熊本とのニューイヤーカップに途中出場している。おそらくはこのときから、自身が抱く感覚の変化に気づいていたはずだ。