休養明けの軽いトレーニングが“軽くない”ケースも
オーバートレーニング症候群の治療には特別な方法はない。自覚症状がとれるまでは休養する。トレーニングを再開するときは回復力が落ちているので、十分に負荷レベルの低いトレーニングから開始し、時間をかけて増やしていくことが重要になる。この時に心がけるのは、あくまでも回復力に注意しトレーニングを調節すること。
特に軽症なら短い休息でパフォーマンスが戻ることもあるが、あくまで一時的。自分の感覚で疲労感がなくとも、回復力の回復がともなっていないので以前と同じレベルのトレーニングを実施するとパフォーマンスはすぐに低下する。選手にはこのトレーニングの抑制が難しい。
「たとえば、オーバートレーニング症候群になった長距離選手に、休養明けは軽いトレーニングからスタートと伝えます。でも、彼らの“軽い”は60分間のジョギングになるわけです。選手は十分軽いトレーニングだと思っても、身体にとって負荷が大きすぎる場合もあります。このままなら症状は進行するだけ。
このように選手と身体の認識のズレが大きいのに気づかない、それが治療を遅らせる要因のひとつです。回復という現象をしっかりイメージできないのが問題です。まずは気持ちよくできるレベルの強度と時間からトレーニングを再開します」
オーバートレーニング症候群の精神的な症状のひとつに「うつ」がある。厳しい練習を重ねるからこそ大会で勝利したときに大きな喜びをえられるが、その反面、体のキレが悪くなったり、記録が伸びなければ落ち込むのは容易に想像できる。メンタルの変化はパフォーマンスにも大きく影響する。同症候群と「うつ」との関係はどうなっているのだろうか。
「うつ病はまじめで几帳面、責任感が高い人に多いと言われています。陸上の長距離選手にはそういう選手がたくさんいます。なぜなら、そういう性格でなければ毎日走り続けることは不可能だからです。重症のオーバートレーニング症候群の人にPOMSという心理テストをするとうつ傾向がみられますが、薬を処方しなくてもうまく休むと治るケースが多いです」