難しい線引き。注意したい風邪でのコンディション不良
トレーニングが過剰になってパフォーマンスがなかなか戻らないのがオーバートレーニング症候群の特徴だが、同時にさまざまな症状があらわれる。動悸や息切れ、手足のしびれなどの身体的な症状から不眠や不安、憂うつなどの精神的な症状まで幅広い。同症候群だけにみられ、クリアに診断できる症状はない。
また、競技や種目を選ばず起こる。タイムの変化で体の状態をつかみやすい陸上競技や水泳、トライアスロンや同じく数値が指標になるウェイトリフティング、球技ではサッカーの他にもバスケットボール、バレーボール、また体操や空手での報告もある。
ただし、オーバートレーニング症候群の症状があるからといって勝手に“診断”して決めつけるのは早計だ。特有な症状がないのが同症候群。「貧血や肝機能障害など疲労症状がみられる様々な疾患を排除できてはじめてオーバートレーニング症候群と診断できます。他の病気が隠れている可能性がある」と川原氏は指摘する。
オーバートレーニング症候群の予防に、確実な兆候をつかみたいところだ。しかし、難しいという。それは「調子が悪い」と初期の同症候群が地続きで境界があいまいで、はっきりとした自覚症状がないからだ。スポーツ診療所を訪ねてきた選手たちの多くはコンディションが落ち始めて、1ヶ月ほど調子があがらない状態だったという。
「競技による違いや、トレーニングの強度や期間が様々なので、一概な目安は言えません。ただ、コンディションのチェックは重要です」と川原氏は話す。川原氏が勧めるのはトレーニング日記に練習内容を記載し、運動時の調子を0~10の11段階の自己評価で記録し続けること。「大まかな傾向をみるものですが、評価の低い時期が続くと体に異変が起きているかもしれません」と指摘する。
特に注意すべきなのは風邪で体調を崩したとき。「風邪がきっかけでオーバートレーニング症候群になるケースが非常に多い。その場合、2つのケースが考えられます」と川原氏。1つはすでにトレーニングが過剰になっていて、風邪が最後の一押しになるとき。もう1つは風邪にかかる前には問題がなかったのに、風邪から完全に回復しないうちに再開するトレーニングが体にとっては強すぎるケース。これが同症候群に発展する可能性がある。