「自分の国の旗のためにプレーする心は全員同じ」
これだけ悲惨な状況でも選手たちは命をかけて国民のためにスパイクを履きピッチに立つ。アサド大統領の顔写真入りTシャツで記者会見に現れたオマリは今年2月に『FIFA.com』で公開されたインタビューで自らのキャリアについて次のように語った。
「僕は19歳のときに兵役に就かねばならなかった。普通は2年間のところ、あんな状況だからそうはいかない。多くのチームメイトたちは海外のクラブと契約して国を出たけど、僕は行くことができなかった。まずは兵役を終えなければならないから、たくさんのオファーを断ったよ」
オマリは今でもシリア国内の強豪アル・ワフダでプレーしている。日本戦でも左足のフリーキックは脅威になっており、代表でも屈指の好プレイヤーだ。しかし国外には出られていない。その現状を「昔は国内リーグも強かった。今とはまったく違う。以前はチームですべての都市に遠征できた。今では多くのクラブが完全に消えてしまい、多くの選手たちが影響を受けている」と分析し将来を憂いている。
彼のいとこであるオマル・ハリビンもまた代表選手だ。だがオマリと状況はまったく違う。現在UAEでプレーしており、家族は内戦状態にある首都ダマスカスに今も住んでいる。愛する者たちを危険な場所に置いてまで国を出る必要があった。
このように全く境遇が違う選手たちでも、ロッカールームでの話題は一つだ。オマリは「もちろん僕らは戦争の話をする。シリアの人々が毎日我慢しなければならない悲しみについてだ。それぞれが意見を持っているが、自分の国の旗のためにプレーする心は全員同じ。そこに社会的な立場や思想、行動の違いは関係ない」と述べる。国民の笑顔のため、それが彼らのすべてだ。
【次ページ】駐日大使代理が語るサッカーの大切さとは