警備側にとっても予行演習となったロシア戦
そして3月29日、フランス代表は、事件後初めてスタッド・ド・フランスに戻った。このロシア戦はユーロ本戦前の最後となる同会場での試合、つまり警備側にとっても本番前最後の実戦での予行練習だ。
以前と違ったのは、地下鉄駅からスタジアムに向かう途中でもボディチェックと荷物検査があったこと。ゲートの所でチェックはいつも通りだった。
ただ車で来た仕事仲間は、「プレスルームに到達するまでに5回荷物とボディチェックがあった」とややお疲れ顔だった。車のトランクを開けてカーペットの下まで剥がして見せたらしい。
前回はあんなことがあっただけに、ゲートで警備に当たっていたスタッフに、「ここで働くのは怖くない?」と聞いてみると「なぜ? だってそのために自分たちがいるんだし、みんなに危険が及ばないよう自分たちが一生懸命務めないと、という気持ちでいる」と真剣な眼差しで返され、少し胸が熱くなった。
ファンたちも、何事もなかったように和やかだった。スタンドは満席ではなかったが、声をかけると「全然怖くなんてない! なんで人生を楽しむのを制限されないといけないんだ?」という答えが返ってきた。頼もしい。
フランスサポーター全員がそうではないだろうが、怖いと思う人はスタジアムには近づかずにテレビ観戦すればいいのだし、平気な人は会場に足を運べばいい。
開幕まで2ヶ月半。
6月10日、無事に開幕戦を迎えられることを祈りつつ。
(取材・文:小川由紀子)
【了】