かつてないスピード感のなかで多人数がボールに関わる
たとえば前半2分のシーンでは過去の日本代表にも見られないスピードの中で、ほぼ全員が攻守に関わった。
中盤で香川慎司と長谷部誠が縦に挟んでボールを奪ったところから本田圭佑がつなぎ、長谷部と手前に引いて来た岡崎慎司の2人でボランチのアルメダニとアルムバイドを突破。岡崎からショートパスを受けた香川真司が、左をスプリントで追い越した宇佐美貴史に縦パスを通す。
香川は宇佐美に対する相手の対応で空いたペナルティエリアのニアサイドに走り込むが、宇佐美はそこでタメを作りながら、さらに外側を追い越す長友佑都にボールを出す。長友はダイレクトで左足のクロスに持ち込もうとするが、右SBアルミダニのスライディングタックルに阻まれ、CKとなった。
ここまで8秒間で8本のパスがつながれているのだが、ボールタッチ数はわずかに13回。そのうち4回は左サイドでタメを作った宇佐美のもので、それ以外はほとんどワンタッチだった。さらに受け手がボール保持者より前に出たのが4回で、岡崎から横パスを受けた香川も後ろから前に出る形でボールを引き出している。
もう1つ注目したいのがペナルティエリアの中に入っている人数だ。香川から宇佐美にボールが出た時点では岡崎と本田もエリア内に達していなかったが、長友がクロスを上げようとした瞬間にはその2人に加え、香川とボランチの山口蛍が走り込んでいたのだ。さらにファーサイドのミドルレンジには右SBの酒井高徳が顔を出していた。
このシーンに関して選手の判断を問うならば、香川としては自分が走り込むところに宇佐美からタイミング良くリターンパスをもらいたかったのかもしれない。というのも宇佐美に対して相手のサイドハーフとSBがつく形になったが、長友が外側を追い越すことで1人の意識を引き付けていたからだ。
つまり長友をダミーにしながら、宇佐美が中でフリーの香川にパスを出せればそのまま決定的なシュートにつながった可能性が高い。だが宇佐美はおそらく中も視野に入れながら、長友を使う方を選択した。
どちらが正しいということではないが、これだけ短い時間、早い流れの中で全てのイメージがシンクロすることは簡単ではない。