「国民をハッピーにしたい」
「英語で問題ない。英語でいいんだ」
会見場に入るなり、シリアのファジェル・イブラヒム監督はそんなようなことを口にし、日本サッカー協会(JFA)関係者を制した。JFAがアラビア語の通訳を用意しようと気を利かせたことに「大丈夫だ」と伝えたのだろう。
私は冒頭でピッチ外のことを質問した。
――シリアは今、国内が大変な状況にあります。シリアを代表する人々として今国内に住んでいる人々、国を離れざるを得なかった難民、そして世界中でシリアに注目している人々に対して、シリアの代表する人物として伝えたいメッセージは?
「来日できたことを、とても嬉しく思っている。シリアが今おかれている状況はとても厳しいということは誰もがわかっていると思う。私たちは国民をハッピーにしたい。それこそがモチベーションになっている。
シリアは文明があり、歴史がある国です。それが今、病んでしまっています。しかし病んでいるからといって決して死ぬ、死に絶えることはない。私からの唯一のメッセージとしてはとにかく人々をハッピーにしたいということだ」
イブラヒム監督は私から目を離さずに、丁寧に1つひとつの言葉を噛みしめるように、ゆっくりとした英語で話した。
シリアのサッカーについて知っている人は多くはないはずだ。だが、シリアという国名を知らぬ人は少ないだろう。アサド政権と反体制派の対立が激しく、それに周辺国や米露が関係し、混乱を極めている。さらに過激派組織・ISが跋扈し、国を離れる人が続出した。欧州に大量に押し寄せて社会問題にまでなった難民だ。
シリアについては残念ながらネガティブなイメージが先行してしまっている。国内でサッカーができる状況にはない。昨年10月のシリア対日本の一戦は、中立地であるオマーンで開催された。