そしてヨハンはボールを見た
メディアの録音や記者室のルールに縛られた不自然な世界の中で、自分の考えを表現したり多数派に挑戦したりする自由を奪われた世代の選手たちにも、スーパースターとなれるやり方は他にもあるのだということをクライフの例は示唆している。
サッカー界、特に英国サッカー界には知性に反発を示す風潮があり、自分たちの仕事のためにあえて何らかの言葉を発しようとすれば愚か者として吊るし上げられてしまうこともある。クライフは17歳で学校教育を終えたが、それでも明確な意識に基づいて思考し発言することができていた。
もちろん、映像が言葉以上に雄弁に何かを物語ることもある。シンプルに『Johan Cruijff』と題されたYouTube動画の開始5分ほどの場面では、クライフはゴールライン付近でゴールに背を向け、2人のDFがその背中に張り付いている。
ボールの下につま先を潜りこませたクライフは、膝の高さまで軽く持ち上げたあと、左足のオーバーヘッドボレーでDFの頭上を抜く。駆け上がってきたMFがこのボールをヘディングでゴールに押し込んだ。15分間の動画の中で、この技巧はさらに2回も繰り返されている。守備陣はそのたびに全くの無力だった。
このシンプルな中にある美しさには、オランダの作家・喜劇俳優だった故トゥーン・ヘルマンス氏の言葉がまさにぴったりだ。
そしてゴッホはトウモロコシを見た
そしてアインシュタインは数字を見た
そしてツェッペリンはツェッペリンを見た
そしてヨハンはボールを見た
【了】
(※)本記事はINDEPENDENT紙との独占契約により、記事全文を翻訳しております。