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Jリーグ 9年前

「怪物」森本の“約束の地”・等々力。11年ぶりJ1ゴールで覚醒するストライカーの本能

text by 藤江直人 photo by Getty Images

攻撃に優れたチームだからこそ可能な気持ちの切り替え

 大久保自身も、前所属だったヴィッセル神戸で精彩を欠いていた。2012年シーズンはわずか4ゴール。戦力外を通告された悔しさも手伝い、一時は韓国Kリーグへの移籍も模索した。

 いわば自暴自棄になりかけていた状況で届いた、フロンターレからのオファー。大久保のなかで眠っていた能力が一気に開放されたことは、68ゴールを量産している2013年シーズン以降の軌跡が物語る。

 点取り屋役に徹することのできるフロンターレでの日々を、大久保は充実した表情でこう振り返る。

「シュートの瞬間にいくつものイメージがわいてくるんです。そのなかから迷うことなく、ベストのプレーを即決すればいい。たとえシュートを外しても、必ずいいパスがくるからすぐに気持ちを切り替えられる」

 前出のフロンターレ関係者が口にした「可能性」という言葉には、絶対的なエースとして君臨する33歳の大久保と同じ道を、森本にもたどってほしいという願いが込められていたはずだ。

 迎えた3月5日。湘南ベルマーレを迎えたホーム開幕戦の後半開始とともに、森本は等々力陸上競技場のピッチに立った。自らが聖地と位置づけてきたスタジアムでプレーするのは、2005年4月9日以来、実に11年ぶり2試合目となる。

 もちろん、身を包むユニフォームはヴェルディからフロンターレへ変わり、観客数も1万1061人から2万1871人とほぼ倍増した。何よりも味方が絶えず仕掛けるぶ厚い攻撃が、森本に勇気を与える。

 前半だけで両チームともに3ゴールずつを奪い合う、壮絶な打ち合いのなかで迎えた後半9分。均衡を破る絶好のチャンスで、森本は痛恨のシュートミスを犯してしまう。

 日本代表候補にも選ばれた左サイドバック・車屋紳太郎が左サイドを切り裂き、絶妙の低空クロスをゴール前へ送る。小林がニアサイドへ囮で走り、ベルマーレの3人を引きつける。

 まさにフリーの状態から、森本がダイビングヘッドの体勢に入る。わきあがった大歓声は次の瞬間、ため息に変わる。ミートし損ねたボールはベルマーレのDF三竿雄斗に当たり、無情にもクリアされた。

 このとき、森本は自らにこんな言葉を投げかけていたという。

「チャンスは絶対に訪れる」

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