膨大な資料・文献と綿密な取材によって構成された『PK』
■『FIFA 腐敗の全内幕』
著:アンドリュー・ジェニングス 訳:木村 博江 文藝春秋 刊
【選考委員評(佐山一郎)】
キャリア豊富な著者の名は90年代前半から日本でもよく知られる存在。調査報道やニュージャーナリズムといった言葉が仮死語化しつつある日本のメディアに喝を入れた点でも意義深い。
FIFAの正体暴露への執念は尊敬に値するが、モラル崩壊や犯罪心理の洞察という点で、事実の酷使ばかりが目立つと断じては欲深いだろうか。
■『パーフェクトマッチ ヨアヒム・レーヴ 勝利の哲学』
著:クリストフ・バウゼンヴァイン 訳:木崎伸也、ユリア・マユンケ 二見書房 刊
【選考委員評(幅 允孝)】
サッカーの試合において目に見えない部分がいかに多く、勝敗に関係しているのかというのを教えてくれる作品。ドイツ代表はW杯で勝つためにものすごく綿密なプロセスを経て、あのブラジル戦に大勝した。その描き方が非常に面白く、レーヴの周到性と準備の精度には驚くばかりだった。今でこそ世界屈指の監督だが、栄光なき選手時代の最後、彼がスイスで集積化のシステムをどのように学んでいったのか、サクセスストーリーの原点にスポットライトを当てたのも新鮮だった。
■『PK 最も簡単なはずのゴールはなぜ決まらないのか?』
著:ベン・リトルトン 訳:実川元子 カンゼン
【選考委員評(佐山一郎)】
『軍隊とスポーツの近代』(高嶋 航/青弓社)を筆頭格に2015年はアカデミズムの側に良書が目立った。だが、膨大な資料・文献と綿密な取材によって構成されたロンドン在住のフットボールライターのこの受賞作も負けてはいない。ジャンルを取っ払っての総合的方法を感じさせる希有の書だからである。
ワン・オン・ワンのPKに特化しての探究書が実は長く待たれていた。謎解き重視の知的興奮をそそる上に、過去も今だとする歴史認識に脱帽せざるをえなかった。
【選考委員評(幅 允孝)】
最もシンプルなサッカーの一場面を「歴史」という縦軸、「データ」という横軸をうまく盛り込みながら、猛烈に面白く読ませてくれる。PKに関しては自虐的にならざるをえないイングランド人ならではのユーモアも現在のイングランドの状況と絶妙にマッチしている。インタビューやコラムも充実していて、PKにまつわる実用としても物語としても読める作品。
【選考委員評(大武ユキ)】
10~20年後になっても古くならない普遍的なテーマ。うんちくにも富んでいることに加え、日本を含む世界のPKについて扱っているので、読み手も選ばない内容になっている点も評価が高い。知識欲を刺激する内容は昨年度、優秀作品に挙がった『サッカーデータ革命』にも共通している。