浦和の交代プランを狂わせたジェイの投入
試合に出たくてウズウズしていた松浦が力を発揮した。そして、ジェイもピッチに立つことを望んでいた。69分、アダイウトンに代わり満を持しての途中出場。磐田のサポーターも背番号8の復帰を歓迎した。
60分まで無失点で抑えたいというプランを遂行し、おまけにリードまで奪う展開。そこに元イングランド代表ストライカーというカードを切る。最前線に起点ができるだけでなく、一発を持つこの男の存在は、浦和にとって厄介そのものだった。
名波監督が動いた直後、ペトロヴィッチ監督は永田充の起用を決断する。身長184cmとディフェンス陣の中では最も大柄なCBをジェイに当てることで対応しようとした。両指揮官のわずか数分間の采配は、試合の結果を大きく左右することになった。
同点に追いつかれても磐田は気落ちすることなく、むしろワンチャンスを見逃すことなく勝ち越しゴールを挙げている。
ジェイを投入したことで、相手は最終ラインに交代枠を割くことになった。浦和は結局、ベンチメンバーの起用は2人にとどまっている。「追いついてからもう1枚カードを切って、さらに圧力を強めていきたかった。だがその後の失点が早く、次の交代が非常に難しくなった」とペトロヴィッチ監督。名波監督の起用にジェイがゴールで応えたことによって、敵将の決断を鈍らせたのだった。
「ジェイを早めに入れたことによって、浦和が永田というカードを切らざるを得ない状況を作り出せたのは非常に良かった」
名波監督は試合直後の監督会見でこう話した。もっとも、これは結果論のようだ。サックスブルーの指揮官は、この交代で浦和が後手のカードの切り方をしてくるとは思っていなかったという。
「さすがに読めてないよ。対策をしてくるとも思っていなかった。(ジェイの投入で)自分たちがこうなるだろうな、ということしか考えていなかった。だから永田が入ってきたのはむしろ驚いた」
それでも名波監督の言う「自分たちがこうなるだろうな」という視点に立てば、先手を打つことで優位に立ったといえる。例えば李忠成、梅崎司が浦和の攻撃を活性化させていたとしたら、磐田の守備は決壊していたかもしれない。相手の交代枠を自分たちのプランで消費させた。それは強豪撃破のポイントとなった。
名波監督は90分を見通した采配を見せたが、そこには「勝ち点3を持って帰る」という強い決意が存在する。選手たち、そして自分自身に勝利を課すことが、強気のベンチワークを促進させた。
完璧なタイミングで交代カードを切り、選手の気持ちを上げる言葉をかけてピッチへ送り出す。名波監督は策士、モチベーターという2つの顔をJ1で、しかも浦和戦で見せた。この日の1勝は、今後のシーズンを戦う上でも、選手たちに自信を植え付ける上でも単なる1勝以上の価値がある。そして指揮官・名波浩の可能性を感じさせた、という点で非常に大きな意味のある勝利だった。
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