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Jリーグ 9年前

強気のベンチワークで浦和を陥れた磐田指揮官・名波浩の策略。稀代の天才は策士へ

text by 青木務

絶妙のタイミングで投入された松浦拓弥

 選手たちの鬼気迫る奮闘ぶりを、抜群の采配でベンチから後押ししたのが名波監督だ。ゴールを決めたジェイは後述するとして、まずは2番目に投入された松浦拓弥について触れたい。

 1-1の同点で迎えた81分、名波監督は松浦を呼ぶとこう声をかけた。

「何でお前を出すかわかるよな?」

 このまま引いたら浦和に押し切られる可能性もあった。松浦が入ることで、他の選手たちに前へ行くんだというメッセージを送る。

 松浦の気持ちは一気に高まった。4万人以上が詰めかけた埼玉スタジアムの雰囲気に「ドキドキした」ものの「緊張はしなかった」というテクニカルなアタッカーは、チームの勝利に貢献するという決意を持ってピッチへ駆けていった。

 発奮するだけの材料もあった。名古屋戦ではベンチ入りしながら最後まで出番は訪れなかった。特に後半は完全に押し込まれた状態で、単独で局面を打開できる松浦がアクセントとなる可能性はあったが、試合終了のホイッスルはベンチで聞いた。

「出たかったというのが素直な感想ですよね。ああいう場面でこそ」

 そう悔しさを滲ませたが「誰を使うか決めるのは監督なので」と、どこか達観した様子でもあった。それはいつ起用されてもいいよう常に万全の準備しておく、という意思表示だろう。J1の舞台では必ずしも主導権を握れるとは限らず、劣勢の時間も長くなる。そして、ワンチャンスを活かすタレントの重要性も高い。

 浦和戦で、磐田の背番号11は自身の価値を証明した。

 ファーストタッチで確実にボールをコントロールし、小林に預けるとスペースへ加速。リターンパスを受けると、深い切り返しで対峙する阿部のマークを外す。再び小林に戻すと最後はジェイが押し込んだ。

「鬱憤を晴らしてくれたと思う」と名波監督は松浦を称え、松浦自身も役割を果たせたことに充実感を得ていた。

 それでも、「俺自身シュートで終わってもいい場面が何回かあった」と話すところは生粋の攻撃型の選手であるが、最後までフォアザチームを体現。ボールをキープしながら時計の針を進めていった。

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