Jリーグはスプリントの距離も短い
では選手個別のスプリント回数を見てみよう。ブンデス今季前半のトップはホッフェンハイムのタリク・エルユヌッシが第14節に記録した54回で各節トップの平均は41.9回。一方の昨季J1ではヴィッセル神戸の小川慶治朗が1stステージ第2節に記録した47回と、単発ではJ1の選手の数字が上回ることもある。
ところが回数ではなく距離で比較すると、ここにも大きな差が現れていた。まず、J1でスプリント距離を参照するには毎節1試合を対象に公開されるライブトラッキングを見なければならない。
そこで、このライブトラッキング対象試合で最もスプリント回数が多かった湘南ベルマーレの藤田征也(第2節)を見てみると、43回のスプリント回数で距離は389.7m。1回につき、およそ9mのダッシュを行っている結果となった。
しかし、前述したブンデスの今季前半戦トップであるエルユヌッシは54回で距離は1261.2m。1回につき、およそ23mもの長さをダッシュしていた。
ここまでのデータから、Jリーグはブンデスリーガと比較してスプリントを仕掛ける選手の数も、1人当たりの距離も大きく下回っていることがわかった。
そして、これらは決して無視してはならない事実だろう。何より攻撃機会に多くの選手が絡むことは得点力を上げるための有効な方法の1つでもある。
ただ、トラッキングデータを活用するのは昨季が初年度。せっかく導入したものは存分に生かさなければならない。
例えば、広島はデータでも分かるように“省エネ”戦法で2年連続のJ1王者に輝いている。しかし、彼らの特徴の1つとしてカウンターがあるのも事実。これは速攻を仕掛ける際に両サイドや前線の厳選された少人数でスプリントを行っているからだろう。
それはブンデスリーガに比べてスプリント回数が極端に少ないJ1というリーグで勝つために編み出された広島なりの必勝法なのかもしれないが、見方を変えれば近年のJ1の勢力図を大きく塗り替えるヒントとなる可能性がある。
仮に図3の平均値を超えるチームが現れれば、Jリーグに革命を起こすほどのインパクトを与えることは想像に難しくない。シーズンインまでのキャンプで各クラブがスプリント回数のアップに力を入れれば、今季のJ1はこれまでになく白熱した試合の連続となるはずだ。
【了】