短絡的な議論が招きかねない本末転倒の事態
リオデジャネイロの地で勝利を手にすれば、成長のスピードはさらに加速され、彼らの視線はおのずとハリルジャパンへ向けられる。実際、植田は「もちろん狙う」とA代表デビューを堂々と目標として掲げるなど、自信という手土産を携えてアントラーズに合流している。
ならば、オーバーエイジ枠の行使を大前提として、具体的な選手名があれこれと飛び交う状況は、23歳以下の選手たちにはどのように映っているのか。
「オーバーエイジを含めて、また競争が始まるので」
植田は努めてポジティブに受け止めているものの、場合によってはカタールでようやく手にした自信という果実をスポイルしかねない。オーバーエイジありきの議論は、アジアで勝てても世界の舞台では通用しない、という烙印を押しているに等しいからだ。
誰もが日本が本大会で勝つことを望んでの発言であり、報道でもあることは理解できる。だからといって短絡的にオーバーエイジ招集と結びつけることは、本末転倒の事態を招くのではないだろうか。トルシエ氏の回顧を振り返ったいま、なおさらリオデジャネイロ五輪決定後の状況に違和感を覚える。
もちろん、U-23を含めたすべての代表チームに指定席は存在しない。優遇は慢心につながり、成長を阻害する大きな要因をなす。それでも、まずはそれぞれの所属クラブに戻った選手たちの「その後」を注視すべきではないだろうか。
一部を除いて、U-23代表は所属クラブでレギュラーを獲得していない選手が大半を占めてきた。今月下旬から幕を開けるJリーグでの戦いで、カタールの地で身をもって死闘を体験した彼らがいかに変わり、昨シーズンまでとは異なるパフォーマンスをピッチで演じることができるのか。
そこには、MF関根貴大(浦和レッズ)やMF鎌田大地(サガン鳥栖)ら、U-23アジア選手権に招集されなかったリオデジャネイロ世代の選手たちも参戦してくる。出場資格をもつ1993年1月1日以降に生まれた全員がお互いに切磋琢磨し、意識し合うことも成長を加速させるはずだ。
それでも手倉森監督の目に物足りないと映り、リオデジャネイロの舞台で勝ちながら、ワールドカップ・ロシア大会でA代表の力になれる選手を育てるミッションに必要だと判断すれば。そのときにはポジションや人選を含めて、初めてオーバーエイジを議論すればいい。
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