“諸刃の剣”となるOAの招集
シドニー大会で楢崎は守護神として日本のゴールマウスに仁王立ちし、アメリカ戦では味方の中澤佑二と激突して顔面を骨折し、流血しながらもプレーを続行した逸話も残した。
森岡はトルシエ氏が「フラット3」と名づけた最終ラインの中央でコントロールを司り、三浦は左サイドの攻撃を活性化させるジョーカーとしてスタンバイしていた。
それぞれがもてる武器の最大値を発揮し、日本のために献身的に戦い抜いた。楢崎はオーストラリアで入院までしているが、実際に指揮を執ったトルシエ氏が抱いたのは反省の思いだった。
もちろん、3人が演じたパフォーマンスには満足しているし、敬意を表することも忘れていなかった。それでも「後悔」の二文字を口にした理由を、トルシエ氏はこう説明してくれた。
「オーバーエイジの選手たちには何の責任もないが、彼らを招集したことで新たにチームワークを作り出すことに多くの時間を要してしまった。サッカーで一番大切なのは、チームの戦う姿勢だ。本大会出場を果たしたときには、オーバーエイジ枠を行使しないほうがいいとヤマモトにはアドバイスを送りたい」
果たして、アテネ五輪本大会で山本監督はGK曽ヶ端準(鹿島アントラーズ)とMF小野伸二(フェイエノールト)をオーバーエイジとして招集したものの、グループリーグ敗退を喫している。
オーバーエイジを招集できたとしても、U-23代表に合流できるのはおそらく大会直前となる。当該選手が海外クラブに所属していれば、なおさら遅くなる。アジア予選を勝ち抜く過程である程度の形を成している代表チームのなかにスムーズに溶け込むのは、決して容易な作業ではないはずだ。
実力や経験という面に限定すれば、オーバーエイジの加入は「1プラス1が2にも3にもなる」効果をチームにもたらすだろう。しかし、机上の計算通りにコトが運ばないのが、サッカーを含めたチームスポーツの特性でもある。
五輪本大会へ向けた総仕上げの時期に、チームの根幹をなす一体感をゼロベースから醸造させる作業が必要となるのならば、オーバーエイジ枠の行使はある意味で「諸刃の剣」と言わざるを得ない。