「自由にやっていい。全部私がカバーするから」
キャリア最後の試合となった皇后杯決勝で自らゴールを決め、有終の美を飾った澤穂希。24年間にわたってトップレベルで日本女子サッカー界を引っ張ってきたレジェンドがあの場面で前線に顔を出せたのは20歳の小柄な選手が献身的にサポートしていたからだった。
伊藤美紀。名門常盤木学園高等学校出身でプロ2年目の20歳。身長150cmと女子選手の中に入っても最も小柄な部類に入るMFは、まるで澤と見間違えるかのようなプレーで大先輩の最後を支えた。
しかし、伊藤にとってボランチは今年まで未知のポジションだった。世代別代表の常連ながら、これまではサイドの攻撃的な選手として高く評価され、ドリブルの突破力や個人での打開を期待されるアタッカーのイメージが強かっただけに、今季から取り組んだ中央での役割は「初めてのポジションだったので全然馴れなくて、攻撃でも守備でも何をしていいかわからない」状態。もがき苦しんでいた。
それでもリーグ中盤戦以降は南山千明や伊藤香菜子といった実力者たちを押しのけてレギュラーを獲得。公式戦のピッチで一回り以上歳の離れた澤の隣でプレーするようになる。すると伊藤はめきめきと頭角を現し、今では欠かせない主力選手へと急成長を遂げた。それには澤の「言葉」が大きな影響を与えていた。
「澤さんが隣で『自由にやっていい。全部私がカバーするからやりたいことをやっていい』ということを言ってくださったので、自分がやりたいことをそのままプレーしていいんだ、とその時感じて、それで救われました」