有望株を日本へ送り出そうとする大富豪
ベトナムサッカー黄金世代の代表格であり、「ベトナムのメッシ」の異名で知られるFWグエン・コン・フオン(20歳)がJ2水戸ホーリーホックへの期限付き移籍で合意に至ったと報じられている。彼以外にもJリーグ移籍が噂されるベトナムの若手は何人かいる。なぜ彼らは日本を目指すのか、なぜクラブ側はそれを推進するのだろうか。
日本移籍が報じられているのは、前述のグエン・コン・フオン、そして、J2横浜FCが獲得を狙っているとされる「ベトナムのピルロ」ことMFグエン・トゥアン・アイン(20歳)だ。両選手はいずれも「黄金世代(昨年のU-19ベトナム代表)」の中心選手で、現在はベトナム1部Vリーグのホアン・アイン・ザライ(HAGL)に所属している。
HAGLは、不動産開発企業大手ホアン・アイン・ザライが所有するサッカークラブ。会長のドアン・グエン・ドゥック氏はベトナム第2の大富豪で、国内では知らない人はいないといっていいほどの超有名人。ベトナムサッカー連盟(VFF)の副会長も兼任している。
サッカー狂として知られる同氏はかねてから、サッカーに莫大な投資をしており、育成分野では、英アーセナルおよび仏JMGアカデミーと提携して、全寮制のHAGLアーセナルJMGアカデミーを運営している。ここでは、将来的に選手を海外に輩出することを目指し、英語やフランス語など語学教育にも力を入れている。因みに「黄金世代」の7割がこのアカデミー出身者。また、ラオスにもクラブ(HAGLアッタプー)を持っており、HAGLはラオスリーグのスポンサーも務めている。
今回のグエン・コン・フオンの日本移籍も同会長の意向が大きく影響している。日本行きを推進する理由としては、ラフプレーが横行するVリーグで若い才能を潰したくないということ。そして、「黄金世代」が国民的アイドルとなったことで、加熱傾向にあるメディアから選手を守りたいということがある。
その過熱ぶり、人気ぶりを表す材料として、いくつか例を紹介しよう。グエン・コン・フオンのFacebookページのフォロワーは、約119万5600人(2015年11月現在)で、元コンサドーレ札幌のベトナム代表FWレ・コン・ビン(約49万8700人)の2倍以上。Jリーグが運営しているベトナム語版Facebookページの「いいね!」の数は、同選手が水戸との移籍交渉で来日した僅か数日間で75倍にまで膨れ上がった。なお、HAGLの株価は、同選手の移籍報道の後、ストップ高となっている。グエン・コン・フオンはもはやベトナムの社会現象だ。