曹監督が流した涙に送られた拍手は「湘南スタイル」が示す未来へのエール
試合後のミーティングで涙ながらに選手たちをねぎらった曹監督は、公式会見の席で凛として胸を張っている。その姿に、会場を埋めたメディアから異例ともいえる拍手がわきあがった。
「我々は足を止めて降格したわけではなくて、常に前に歩いて、その壁を越えようとしたけど一歩及ばなかった。選手たちを責めるつもりも、後悔もまったくありません。それほど彼らはよくやってくれた。
足りないとしたら僕がすべて。責任があるから全て投げるのか、続けるのか、続けてくれと言われるのか、やめてくれと言われるのか。それによって責任の取り方は変わってきますが、僕は今までも、これからも逃げるつもりはまったくありません」
最後に質問が飛んだ。もし続投するとして、譲れない点はあるのかと。
「質問にお答えできるとしたら、監督として、人として、もしくはこのチームのリーダーとして、自分がやってほしいことの基準を変えないことでしょうか」
以来、一歩及ばなかった差を突き詰めてきた。前述した涙を流したのも、一度や二度のことではない。笑い、喜び、怒り。敵地のロッカールームで、ペットボトルを蹴り上げて怒声を発したこともある。
テーマはただひとつ。いかにして選手たちを成長させるか。幾重にも刻まれてきた喜怒哀楽を糧としながら手にしたJ1の「住民票」の価値を、曹監督は2015年10月17日の記者会見でこう表現した。
「サッカーは大きい選手のほうがよくて小さい選手はダメ、スピードがある選手がよくて遅い選手はダメと言われます。そうした原理原則を乗り越えて、自分たちの目の前にある壁を踏み台を使って飛ぶのではなくて、自分たちの力で飛んだ彼らは、綺麗なジャンプじゃないかもしれないですけど、本当にたくましいジャンプだった。そこを皆さんに少しでも理解してもらえたら」
割れんばかりの拍手が、2年もの時空を超えて再び曹監督に降り注いだ。2年前は善戦に対するねぎらいの思いが込められた拍手は、ぶれることなく真っ向勝負を演じてきたここまでの軌跡と、いまもなお進化し続けている「湘南スタイル」が示す未来へのエールがこめられたそれに変わっていた。
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