残留を決めた決勝点は「リスクと規律の共鳴」
謝罪した理由はただひとつ。「指揮官として失格だった」と曹監督は続ける。
「指揮官やリーダーと呼ばれる人間は、部下や仲間を前向きで明るい気持ちにさせることが大前提となる。選手たちをそうさせられなかった言動をした自分を許せなかったし、この思いを伝えなければ鳥栖戦に臨めないと思ったので」
マリノス戦を前にして、選手を迷わせる言葉を投げかけた自分が許せなかった。それまでの自らの指導を「子離れできない過保護な『ダメ親』だった」と反省し、自立を促す意味で最低限のヒントを与えたつもりが、連敗で生じていた負のスパイラルに拍車をかけた。
一方の選手たちも、最後は曹監督が手をさしのべてくれると甘えていた部分があった。
「自分たちがもっと自立したほうがいいんじゃないかとミーティングでは言い合った。曹さんに言われるだけじゃなくて、自分たちの判断や意識で動くことも絶対に必要になってくるので」
雨降って地固まる。最大の危機をこう振り返った永木は、指揮官の涙に魂を震わせている。
「曹さんを勝たせたい、という気持ちが自分のなかでさらにわいてきました」
サガン戦は4-2で快勝。ホームでの初勝利とともに、ベルマーレから迷いが消えた。もちろん、その後も黒星を喫した。レッズとガンバ、マリノスにはセカンドステージでも勝てなかったが、だからこそFC東京からもぎ取った白星はリベンジ以外にも価値がある。
後半10分にMF菊池大介が叩き込んだ決勝点は、リスクと規律が共鳴した上で生まれていたからだ。
この試合で初めてシャドーに入った古林将太へ、FW高山薫が縦パスを入れる。相手の潰しに合い、ピンボールのように弾けたボールが右タッチライン際にいたMF藤田征也の前へ転がってくる。
ノーマークだった藤田がセオリー通りに、相手GKと最終ラインの間へ低く、速いクロスを入れる。左サイドから飛び込んできた菊池が右足をヒットさせ、豪快にゴールネットを揺らした瞬間の選手配置には思わず目を疑った。