浦和戦の敗北を糧に勝利を掴んだ鹿島戦
敵地での鹿島アントラーズ戦に臨む直前のミーティング。指揮官はこう訴えかけた。
「1対1の粘り強さや最後まで頑張る姿勢、あるいは最後まで声を出し続けること。我々が内なる部分で大事にしてきたものと、もう一度向き合っていこう」
1週間前の3月7日。ホームに浦和レッズを迎え、唯一のナイトゲームとしてTVで生中継された開幕戦で、ベルマーレは1-3で逆転負けを喫していた。
前半24分には自陣からカウンターを発動。FW大槻周平のシュートは惜しくもDF槙野智章のブロックに弾かれたが、最後は6人が相手ゴール前へなだれ込む怒涛の攻撃で赤い悪魔を畏怖させた。
指揮官に就任した2012年シーズンからともに育んできた「湘南スタイル」の一端を、全国のサッカーファンへ披露した名刺代わりのシーン。その一方で、曹監督は自らを責めていた。
レッズは自らが現役時代にプレーした古巣であり、J1を戦った2年前もさまざまな教訓を与えてくれた。J1昇格を決めた直後から「開幕戦で対戦したい」と望み、実際に決まってからは3月7日に照準を絞って練習を積んできた。
その過程を、しかし、曹監督はこう振り返っている。
「悪い意味で気持ちが昂ぶり過ぎていた」
人数をかけた高速カウンターは、もちろん武器のひとつだ。しかし、「走る」ことは「湘南スタイル」の一丁目一番地ではない。だからこそ、アントラーズ戦を前に原点へ回帰する必要があった。
「90分間を通して足を止めない。両方のゴール前で体を張る。1回でボールを奪えなかったら2回、3回といく。1回で相手を崩せなかったら2人、3人と人数をかけて攻める」
掲げた目標通りに、愚直に、泥臭く戦い続けたアントラーズ戦。後半のアディショナルタイムに飛び出したFWアリソンの起死回生のヘディング弾で、カシマスタジアムにおいて実に20年ぶりに手にした白星はJ1残留を勝ち取る軌跡への序曲となった。