悲願のJ1残留を決めたFC東京戦後、涙を流した曹監督
いつもならばマイクを通す必要のないほど大きな曹貴裁監督の声が、この日だけは違った。敵地でFC東京に2-1で競り勝ち、J1残留を決めた直後の公式会見。指揮官の声は心なしか震えていた。
そして、言葉が途切れたのは開始から2分が過ぎたときだった。いまにも決壊しそうな涙腺をせき止めていたのか。キャプテンのMF永木亮太のプレーに言及した曹監督は、おもむろに天井を見上げた。
「キャプテンの永木が足を攣って大変だったと思いますが、本当は攣るのはいけないんですけど…。攣ってもあの場面で1秒後に立ち上がってプレーする姿は…」
沈黙すること数秒。必死に言葉を紡ぐ。
「すごく嬉しかったし、そういう試合を本当にしたいなと思って毎試合、毎試合積み上げてきました。自分たちの力で来年もJ1でプレーする権利を得られたことに対して、彼らに心の底からおめでとうと言ってあげたい。今年も何回も失敗しましたが、そういうことしか頭に浮かばないです…」
1点のリードで迎えた後半42分過ぎ。自陣の中央でMF三田啓貴とこぼれ球を激しく競り合い、吹っ飛ばされた永木の動きが止まってしまう。
ピッチに倒れ込みながら、背番号6は痙攣した両足を必死に伸ばしていた。
「あの時間帯で自分が欠けたら、守り切れないと思ったので。相手も絶対に勝たなきゃいけないゲームだったはずだし、そこでボールを出して(試合を中断させて)くれることはおそらくないと。11人でも大変なくらいでしたから、だからすぐに戻りました。あまり攣らないんですけど。伸ばして、伸ばして。回復を待つだけでしたけど、何とか乗り切りました」
危機感が疲れ切った体を動かす。場面はFC東京の右コーナーキックに変わっていた。正確無比な左足のキックを誇るDF太田宏介が、ボールをセットしている。
一刻も早くゴール前へ戻らないといけない。マンツーマンでマークするMF高橋秀人に少しだけ体を預けながら、永木は再び足を伸ばす。その後もプレーが途切れるたびに――。
闘いの神が乗り移ったかのような永木の一挙手一投足は、見ている側の心を震わせた。曹監督もその一人だったが、こぼれかけた涙の原点をたどっていくと開幕直後に行き当たる。