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堕落するマルセイユ。低迷する順位、ファンの暴動…かつての英雄に浴びせた非道なバッシング

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

かつての英雄バルブエナにブーイングの嵐

 激しいブーイングを予想して、試合当日朝のフットボール番組の中でバルブエナはサポーターに訴えた。

「8年間尽くしたクラブに、敵陣の一員として戻るのはハートが痛む。けれど自分はプロ選手として私情は脇へ置いて、ピッチ上で自分の使命を果たすために乗り込む。サポーターのみんなが、僕がベロドロームでシャツを汗まみれにして戦っていたことを、覚えていてくれていると信じている」

 しかし、オベーションで迎えられるなどという心温まるシナリオは用意されてはいなかった。スタンドには、バルブエナのお面をつけた人形が宙づりにされ、『本物のマルセイユ人なら、マルセイユ以外ではプレーしないはずだ!』と書かれた巨大な横断幕が掲げられた。ウォーミングアップに出て来たバルブエナめがけてライターを投げつけた男は、数人の警備員に抱えられてスタンドから連れ出された。

 さらにそこへ油を注いだのが、審判の微妙な判断だった。25分、ゴール前に走り込んだリヨンのエース、ラカゼットがGKマンダンダと接触して倒れ、PKをゲット。これを本人が確実に収めて、リヨンが先制点を決めたのだが、マンダンダのスライディングはラカゼットの足をとらえていたとはいえ、接触直後はいったんしっかりと着地していた。その後倒れ込んだ様子が再生ビデオで流されると、スタンドは激しい不満の声に包まれた。

 おまけに前半終了直前には、MFアレッサンドリーニがバルブエナへの背後からのタックルで一発退場。この緊迫した対戦で、後半45分をマルセイユは10人で戦う状況に追い込まれてしまった。

 後半に入り、数的にも有利になったリヨンの優勢が続くと、サポーターの怒りはますますヒートアップ。罵声にもくじけず、この日マン・オブ・ザ・マッチ級の働きをしていたバルブエナが、彼の十八番である右CKの位置に着いた時には、スタンドから異物が投げ込まれるわ、発煙筒が焚かれるわで、複数の警備員が集合してバルブエナをプロテクトする配置につくまで審判もプレー開始の笛を吹けない有様だった。

 そして62分、ついに主審は騒ぎの悪化を懸念してゲーム中断を決定。選手たちはいったんロッカールームに引き上げ、会場が冷静さを取り戻すまで試合は中断された。

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