今も昔も変わらない基本の大切さ
選手たちの自立を促す一方で、強化合宿では基本をひたすら繰り返すメニューを組んだ。
たとえばヘディング。全体練習を終えて夕食を取ると、決まってディフェンダー陣と釜本が体育館に集められる。メニューはただひとつ。天井から吊るされ、勢いをつけて向かってくるボールに対して、順番にひたすらヘディングを繰り返していく。
強烈なヘディングを見舞うには、ボールが最下点にきた瞬間に頭でヒットしなければならない。ちょっとでもタイミングがずれると、クラマーさんの怒声が館内に響き渡る。
「体を思い切り反り返らせて、胸を張って、あごを引いた体勢で前へ叩きつけろ」
終わる気配のない状況に嫌気がさしたのか。最年少だった釜本に先輩選手があることを命じる。
「ボールを上へ弾き飛ばして、紐を天井に絡ませろ」
練習を続行不可能にさせる作戦。しかし、クラマーさんは何事もなかったかのように、通訳を兼任していた岡野俊一郎コーチを天井によじ登らせ、紐をほどくように命じる。
毎晩のように同じメニューを課されるなかで、釜本はヘディングを極める極意をつかんだという。
「体を反らせた状態をキープしながら空中でボールを待つには、腹筋だけではなくて背筋も徹底して鍛えないといけない。つまり、これをするためには、あれをする必要があることがやがてわかる。クラマーさんの練習には、そういうヒントが必ず隠されているんです」
ペンデルボールと呼ばれるこの練習法はその後見られなくなったが、最近になってバイエルンが再び取り入れている。基本を徹底して繰り返すことの大切さは、昔もいまも変わらない。
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