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北海道の熊になってたまるか――。釜本氏との信頼と深い愛。クラマー氏が残した世界基準の育成術

text by 藤江直人 photo by Getty Images

釜本氏自ら発案。創意工夫を凝らした練習法

北海道の熊になってたまるか――。釜本氏との信頼と深い愛。クラマー氏が残した世界基準の育成術
クラマーさんの口癖を、釜本邦茂は日常生活のなかで実践するようになる【写真:Getty Images】

「左手を不自由なく使えるようになれば、左足のキックも上達すると思い込んだんです。中学校のときの数学の先制が黒板に右手で数字を書きながら、左手で図を描いていたことを思い出したのが根拠なんですけどね。下宿先の部屋で暇な時間に、左手にもった箸でビー玉をつかんでは何個も何個も移動させる。そのうちに、左手でご飯を食べられるようになったんですよ」

 メキシコ五輪であげた7ゴールの内訳は、右足が4、ヘディングが1、そして独自で強化した左足が2だった。歴代最多の202ゴールをあげている日本リーグでも、節目となる通算100、200ゴールを左足で決めている。

 左手を鍛えたこととの相関関係は定かではないが、創意工夫を凝らすことへの満足感は覚えていたのだろう。

「いつでも、どこでも工夫次第で練習できるんだぞ」

 クラマーさんの口癖を、釜本は日常生活のなかで実践するようになる。

 下宿のあった東伏見と高田馬場を往復する西武新宿線ではつり革をつかまない状態で立ち続け、車両が揺れることを逆に利用して足腰を鍛えた。

 街を歩くときには、正面から来る人との距離が1.5mになった瞬間にパッとよける動きを繰り返した。一見すると奇異に映る行動の意図を、釜本はこう説明する。

「ドリブルで相手を抜くときに、2m手前でフェイントを仕掛けてもまったく意味がない。1.5mのきわどい距離で仕掛けられるかどうか。その間合いを体に覚えさせていたんです」

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