「技術」の定義を変えた“極左”の川崎フロンターレ
セサル・ルイス・メノッティの「フットボールには右翼と左翼がある」の言葉に従ってJリーグを眺めてみると、左の端にいるのは川崎フロンターレだろう。
極左といっていい。簡単にいえば「自分たちのサッカー」というより「自分たちだけのサッカー」だ。誤解を避けたいので先に記しておくが、川崎が相手をみないでプレーしているわけではない。むしろ相手のことは非常に気にしている。ただ、それはフォーメーションのような実体のない記号ではなく、具体的に動く人間としての相手だ。
川崎を左翼の筆頭に持ってきたのは、スコットランドを源流とするこのスタイルに最も忠実なチームではないかと思うからだ。
イングランドとの対戦において、スコットランドはショートパスをつないで攻撃するという新しいスタイルを編み出した。まだ「パスなど男らしくない」と思われていた時代である。「中盤」の概念はここから始まったと考えられる、また技術を駆使して勝つという哲学もスコットランドが源流と考えていいだろう。より正確に、より速く、より上手く。技術で優位に立ち勝利を目指す。スコットランドからヨーロッパ大陸、南米に広く受け入れられている、いわば王道のフットボールだ。
王道があれば覇道もあるわけで、右翼のフットボールは相手の良さを消すことで相対的に勝利を目指す方法であり、その意味では手段を問わない。技術というディテールを積み上げることで勝利を目指すのが左翼とすれば、結果から逆算してディテールを決めるのが右翼のアプローチだ。
川崎フロンターレは、その点で左翼の王道ど真ん中。ひたすらディテールの積み上げだけで勝利を目指している、いまどき珍しいぐらいの極左ぶりだ。後述するサンフレッチェ広島や浦和レッズのようにフォーメーションを動かすことでボールポゼッションを高めているのではなく、川崎は個々の技術の高さでパスを回している。
別の言い方をすると、川崎は技術の「定義」を変えたことでパスワークを進化させた。(続きは『フットボール批評07』をご覧ください)