イスラム国に対するヨーロッパ屈指の戦闘員供給国に
ところが近年、新たな問題が起きている。コソボからの人口流出が止まらないのだ。2014年の11月から年末にかけて約10万人の人々が国を出ている。全人口が180万人であるからこれは極めて深刻な問題である。2ヶ月の間に殺到したのは、ドイツ政府が難民の受け入れを緩和したという情報が流れたためである。
入国して難民申請をすれば1ヶ月で受理されて手厚い保護がなされるということで、真冬にもかかわらず着の身着のままでコソボの人々は家を捨てた。
しかし、この情報はデマで、すぐにドイツ政府は否定したが、それでも流出は止まらなかった。大混雑のバスターミナルで山の様な荷物を積んで出発を待つ人々を前に2011年に米国の肝いりによって36歳の若さで初の女性大統領に就任したアティフェテ・ヤヒヤガが「お願いだから国を捨てないで」と懇願し、それに対して住民が「ふざけるな! お前らのせいだ」と怒鳴り返す一幕もあったという。流出の原因は何よりも貧困格差である。
独立はしたものの若年失業率は65%を超える。地方の農家ではどれだけ働けども月収が300ユーロを越えることはない。元々、コソボは旧ユーゴ時代から自立した経済構造になく、スロベニアやクロアチアなど北部の豊かな共和国が支えていた。その支援元が現在ではコソボ独立をサポートした欧米諸国に代わったに過ぎない。
OECD(経済協力開発機構)のデータベースによればコソボに対する1人当たりの援助額は世界でもトップクラスで、援助をもっと必要としているサハラ以南のアフリカの国々よりも1人当たりの金額が多い。コソボが破たんしたら、NATO軍や欧米諸国が行ったことはその大義が根底から問われてしまうので意地になって援助を続けているが、矛盾だらけのこの支援構造を揶揄し、EUのお荷物となったギリシアのことを「コソボ化」と呼ぶ学者さえいる。
さらにもうひとつ深刻な問題は、その貧しさ故に現在コソボはイスラム国に対するヨーロッパ屈指の戦闘員供給国になってしまっていることだ。(全文は『欧州フットボール批評03』をご覧ください)