フットボールチャンネル

Jリーグ 9年前

芸術FKにハードワーク――。横浜FMの背番号10が見せた輝きと献身。浦和を手玉に取った中村俊輔

text by 青木務 photo by Getty Images

中村俊輔が描く“もうひとつの”速攻の形

 実際に、速い展開の中でゴール前へ顔を出すシーンはあった。だが「トップ下の画が監督と自分とでは違うと思う」と中村が言うように、彼なりのビジョンもある。それはこんな言葉に表れている。

「前の選手の推進力を止めないパスを出せば、一緒になって走るよりもしかしたらもっと速い攻撃になる」

 守備から攻撃に移った時、多くの選手がゴール前になだれ込むことでチャンスを作る。一方、前を走る選手の勢いを削ぐことなくボールを供給することで決定機を創出する攻め方もある。

「3点目は結構近い形」と中村。59分、自陣で奪ったボールを受けると前進しながら、右サイドのスペースへパスを送る。そして、アデミウソンのクロスを齋藤学が決めたゴールだ。この一連の流れでは、伊藤翔を含めた前線の3人が敵陣に侵入しており、「チームの攻撃のスピードを落とさずに」というモンバエルツ監督の要求に、中村がパスという選択肢を応えた場面だった。

 エースと指揮官の描く画は微妙に異なるのかもしれない。中村曰く、現段階ではまだ「すり合わせの最中」だという。それでも監督の要求も受け止め、自らの創造性やアイディアを発揮し、勝利を呼び込んだこの日のパフォーマンスは大きな価値があるはずだ。

 慣れ親しんだトップ下で輝きを放ったが、貢献は攻撃面だけに留まらなかった。

1 2 3 4

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!