早々の失点も「前への姿勢」を失わなかった選手たち
失点してからの戦いについて、永木はチーム全員の思いを代弁する。
「事故だったと思うようにしました。取られていないものだと気持ちを切り替えて、戦うしかないと」
キックオフから1分と経たないうちに失点を許した試合として思い出されるのが、2013年4月27日のジュビロ磐田戦となる。このときは心が動揺したまま、なおかつ日本代表選手を擁する名門にどこか怯えたまま、0対4の惨敗を喫している。
ひるがえって、フロンターレ戦はどうだったのか。
ベルマーレらしさの源泉をなす「前への姿勢」を失うことも、元日本代表の中村憲剛を中心とする相手のパスワークを恐れることも、焦れて無謀な攻撃を仕掛けてバランスを失うこともなかった。
ゴールキックを得た場合、フロンターレはGKからショートパスをつないでくる。迎えた前半11分。守護神・新井章太からパスを受けたDF井川祐輔との間合いを、すかさず菊地が詰める。井川が右サイドバックの武岡優斗へボールを預けると対面のMF菊池大介が、武岡が中村へパスを通すと今度は永木が連動してプレッシャーをかける。
自陣のペナルティーエリア付近という焦りも手伝ったのだろう。中村からリターンパスを受けようとした武岡のトラップが大きく流れる。ボールが転がった先にフリーでいたのは藤田祥。新井を巧みにかわして叩き込んだ同点弾に、永木は思いを強くした。
「フロンターレも事故の失点だと思うけど、あれは自分たちかが前から行けている証拠でもあるので」
クライマックスは後半31分。自陣の中央でパスを受けた永木が前方のFW高山薫へボールパスを預けた瞬間に、ベルマーレにあうんの呼吸でスイッチが入る。リスクを冒すならいまだ、と。