ELオッド戦は通過点にすぎない
そんな「控えめ」なバイグルを説得したのが、時を同じくしてBVBの指揮官に付いたトーマス・トゥヘルだった。
フンケルが見抜いた才を同じ様に感じたトゥヘルは、マインツの監督を辞した後の浪人時代に注視し続け、何としてでもバイグルを獲得しようとする。そして長い対話の末に、「スーパー坊や」の説得に成功した。
「トゥヘル監督は僕にあるプロジェクトを示した。それに僕は納得したよ」
指揮官トゥヘルが、BVBの未来と自分に対してどんな計画を描いているかを知ったバイグルは、トッテナム、ナポリ、アヤックスに断りを入れた。
そしてやって来たドルトムントでバイグルは、イルカイ・ギュンドアンや香川真司といった「優れた選手」とプレーする機会を得る。バイグル、ギュンドアン、香川で構成されるBVBの中盤は、ブンデスリーガでも屈指のクオリティを示し始めている。5年前に鳥肌を覚えたピッチで、若き才能は仲間に恵まれ、今まさに羽ばたこうとしているのだ。
『シュポルトビルト』誌は19歳のMFのことを「ふてぶてしく屈託がない」と表現する。ミヒャエル・ツォルクSDは「全てのアクションに意図を持っている」と評する。
第2節のインゴルシュタット戦でもバイグルは90分に渡って堂に入ったプレーを見せた。パス成功率は88%を記録する。これも両チームの中で最高の値である。
バイグルは、27日に行われるヨーロッパリーグのプレーオフ、オッドとの2ndレグでも「ふてぶてしく屈託がない」プレーを見せて、パスは「常軌を逸した正確性」を示すだろう。そしてドルトムントをEL本戦に導くはずだ。フンケルは、バイグルがドイツ代表になると見ている。オッド戦は通過点に過ぎない。
5年の時を経て、8万の情熱は、かつて打ちのめした14歳の少年のプレーに酔いしれるようになる。
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