「負けて強くなることはない」
「このシチュエーションで負けちゃいけないよ。これ勝って終わっていたら本当に力になるんだから。目に見えないけど、本当に自信になって力になるんだよ、こういうのを勝ちきれれば。これ勝ちきれないと正直何も残らないんだよね」
この日、鹿島にはわずかながらリーグ優勝の可能性が残っていた。そして、中田浩二氏の現役ラストマッチでもあった。結局、ガンバ大阪がタイトルを手にしたのだが、問題は勝利が求められる大事な一戦で敗れたことだ。
相手の果敢なプレスと球際の激しさに押され、鹿島の選手たちは自分たちの時間を作ることができなかった。鳥栖のファイティングスピリットは素晴らしかったが、鹿島のパフォーマンスも淡白だった。
仮に、鳥栖に勝ってシーズンを締めくくれていれば、選手たちは普段の1試合で得るもの以上の特別な自信を手に入れられたかもしれない。常勝軍団を見続けてきた鈴木氏はそう確信していた。
シーズン途中での監督解任という事態に陥った現状は、勝ちきれなかったあの日と無関係とは言えないはずだ。
セレーゾが我慢強く起用した若手は立派な戦力となった。試合経験を積む中で、脈々と受け継がれてきた勝者のメンタリティーも継承されつつあった。柴崎岳、昌子源、土居聖真らがリーダーとなり、新時代の鹿島が誕生する気配は確かにあった。だが、昨年の最後に得られるはずだった大きなものを取り損ねた代償は、今季の不調として表れたのではないか。
「20年経験しているけど、負けて強くなることはない」と話していた鈴木常務取締役。鹿島の生き字引は、強くなるためには何が必要か知っている。
「勝った時の喜びを知っているからまた勝ちたいという欲も出てくる。だから、勝っている選手はどんどん勝てるようになる」
まずは今節のFC東京戦に全てをぶつけなければならない。求められるものは、勝利。ただそれだけである。
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