憔悴しきった表情で涙を流した岩清水
流れを変えるために投入されたのはMF澤穂希(INAC神戸レオネッサ)。代わりにピッチを後にした岩清水は、それまで抑えていた感情を制御することができない。周囲にいた選手たちに慰められるたびに、ベンチで大粒の涙を頬に伝わせた。
佐々木則夫監督としては、「背中で語ることができる」と全幅の信頼を置く澤をボランチに据えることでチームに落ち着きを与え、反撃に転じる青写真を描いていたはずだ。
そのためには誰と交代させるべきなのか。精神的なショックを受けていた岩清水としたのは妥当な判断だったかもしれないが、ある意味で“懲罰”とも受け取れる采配で、岩清水の心中がさらに動揺をきたしていたことは容易に察することができる。
決勝戦を戦い終え、銀メダルを受け取ったときにも見せていた岩清水の憔悴しきった表情は、成田空港に帰国した7月7日になっても変わらない。成田市内のホテルで行われた取材対応。何とか質問に答えようとした岩清水だったが、こう声を絞り出すのが限界だった。
「大会全体を振り返っても、決勝しか思いつかない。あまりしゃべることはないです」
「いろいろな人から励ましの声をもらいましたけど、もらうたびにつらいので」
あとは涙だけがこぼれてしまう。決して岩清水一人の責任ではない。それでも世界女王の肩書を失った現実を一人で背負うかのように、岩清水は視線を落とした。
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