サッカーにおいて日本の規律は時として仇となる
「指導者が育成世代のこどもたちに接する上で必要なことは」という質問を投げかけてみると、「子どもたちの創造性に制限をかけないこと」と笑みを浮かべる。
「日本は規律をしっかりと守って、団体行動ができるリスペクトに値する国。仕事や社会人として見習う点は多い。でもサッカーに関しては、その規律が時に仇になってしまう。特に育成に関しては。子どもたちはルールが多すぎると、自由な発想が奪われてしまう。
ファンタスティックなプレーも、ルールのひとつとして教えなければいけなくなってしまうんだよ。今の日本では、ロナウジーニョみたいなプレーヤーを輩出するのは難しいと思う」
アシス氏は「楽しむこと」「褒めること」という言葉をよく発する。それは、指導者が良いプレーを褒め、子どもたちが心からサッカーを楽しめる環境が創造性を育むと考えているからだ。
近代サッカーではロナウジーニョのように、“魅せる”プレーで観客を沸かす選手は絶滅しつつある。これは日本に限らず、ブラジルでも同様のことがいえるのかもしれない。
王国ブラジルの源泉であるストリートサッカーを、都市開発が進んだ大都市で見かけることは稀となっている。アシス氏は、そんな時代の流れから来るサッカーの質の変化に、危機感を募らせているようだった。
「ブラジルは広い国で、サッカーをする子どもたちはたくさんいる。国が広い分、ひとつひとつの地域で教え方や文化が違う。生まれた場所で選手に与えられるチャンスの多さも変わってくるんだ。だからいろんな選手が出てくるし、多様性を大切にする。
今はアルゼンチン選手がピークのタイミングかもしれないが、いつの時代もブラジルではペレ、ガリンシャ、ロナウド、ロナウジーニョのといった必ずトップレベルの選手を輩出してきた。次が誰かはわからないが、必ずトップレベルの選手は出てくるはずだよ」