「(感想は)ひとつ残らず全部読みました」」
――漫画に限らず、優れた創作物というのは受け取り手が自分に置き換えて考えてしまうものだと思うんです。読者を当事者にしてしまう。私もやはり『聲の形』を読んで自分のことに置き換えて考えざるを得ませんでした。そういう力のある作品だと思うんです。
「漫画の中ではこういうことが起こったけれど、読者はそれに対してどう思うんだろうということにすごく興味があって、それを聞きたいがために描いていた部分がありました。ですから反響が大きくていろんな感想が寄せられたのはとても嬉しかったです。ひとつ残らず全部読みました」
――作品の中に手話で会話する場面が結構出てきますね。あれを絵にするのは大変だったと思うんですけど大今さんご自身は手話ができるんですか?
「私はほとんどできないんですけど、母ができます」
――ではお母さんに手話をやってもらってそれを絵にしたってこと?
「FaceTimeでつないでiPadの前でやってもらいながらそれを描きました」
――ああ、連載のときにはもう東京に住んでいらっしゃったということですね?
「そうです。新人賞を取ったすぐあとに東京に出てきました。19歳のときですね」
――作品の中には心に残るセリフがたくさんあるんですけど、その中のひとつ、第3巻に主人公・石田将也のモノローグとして「たぶん俺は考え込まないと前に進めない奴なんだ」という言葉が出てきます(157ページ)。大今さんご自身もそういうタイプなんですか?
「そういうタイプですね。人と会話していても『それについてはまだ考えていないので考える時間が欲しい』ということがよくあります(笑)。自分がバカだとわかっているんで慎重な判断をくださないと、と思ってしまうんです。作品でいえば『どうしてこんなことを描いたのか』という問いに対して答えられるようにしておきたいんです」