「決定力」と「得点力」をどう区別するか?
『決定力不足』という日本独自のサッカー用語は、一般への浸透度とは裏腹に、そもそもの定義がハッキリしない。決定力とは、どんな能力なのか?
チャンスを決める力だとすれば、『得点力』とは何が違うのか?
その目的語は、試合だろう。
ならば、“試合を決定付ける力”。それを決定力と考えるのが自然だ。
たとえば、その試合の当該時点における決勝ゴール、あるいは同点ゴール。試合の結果(勝ち点)をひっくり返すようなゴールを挙げ、こう着をぶち破る力。それを決定力とし、逆に2-0を3-0に広げるような追加点、あるいは3-0から3-1に縮めるような追撃点は、決定力とは考えない。筆者はそのように定義する。
なぜか。
野球のピッチングに例えるなら、いくらかの点差があってソロホームランまではOKとするストライク先行の配球と、1点も与えられない僅差の中で投げる配球は、組み立ても守備のシフトも大きく異なる。バッター側としても、前者の状況でホームランを打つことと、後者の状況でホームランを打つことは、難易度が異なる。後者のほうが甘い球は少ないからだ。
サッカーの戦術的に言うなら、ビハインドを追う相手がリスクを負って攻め込んできたとき、その空けたスペースをカウンターで突く追加点は、試合の流れを巧みに利用したゴールだが、しかし、相手も「取られても仕方がない」と開き直っているので、このようなゴールは、こう着した状況を打開したとは言わない。
相手がその1ゴールを最大限に警戒し、「入れさせない!」とする状況に対して、こう着をぶち破ること。その緊迫した状況で試合をひっくり返してこそ、決定力である。そう明示的に定義をするなら、この造語にも価値があるのではないか。