パンクスの声援を背に巻き返しを図る宮市
その後、貧しい労働者階級が構成するというファンは、圧倒的に豊かなクラブに抵抗する“恐れ知らずのアンダードッグ”という立ち回りを好んで選び取るようになった。
そこには同じくハンブルクを本拠地とする“名門”ハンブルガーSVに対する、ひょっとすると一方的なライバル心もあっただろう。そして“恐れ知らずのアンダードッグ”にぴったりのビジュアルが、他でもないドクロだったのだ。
暴力や凶悪といったネガティブなイメージを連想させるため、当初はクラブの会長や古参のファンは好まず、オフィシャルショップでの取り扱いもなかったが、ドクロに対する需要は高まっていった。
1998年には、ビートルズも演奏したライブハウス「スター・クラブ」が広告キャンペーンにクラブのワッペンと並んで使用し、00-01シーズンには、実際に選手が着用して戦うユニフォームの襟の裏に縫い込まれるまでになった。そして今ではオフィシャルショップを覗けば、Tシャツを始めとして、ドクロをあしらったパンキッシュなグッズが目に飛び込んでくる。
気付けばFCザンクトパウリは、ドクロ=恐れ知らずのアンダードッグという唯一無二のアイデンティティを獲得していたのだ。国内外に熱狂的なファンを抱えることになり、ドクログッズは観光土産としても人気を集めている。
クラブ運営にグッズ販売による収入が欠かせないことを考えれば、FCザンクトパウリは、ドクロを使用したブランディングに成功したとも言えるだろう。
試合の日にもなれば、レーパーバーンからミラントア・シュタディオンに抜ける小道の脇に連なるバーは、ドクロをあしらった黒い服で溢れかえる。次第に恐れ知らずのアンダードッグは連なってスタジアムに集まってくる。巨大な相手に対する抵抗を好む男達の声を背に、宮市亮は巻き返しを図るのである。
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