戦術はすぐにアップデートされていくもの
ただ、日本ハンドボール界は、それらを成り立たせるため、技術の面でこれからもっと基礎技術を磨いていかなければならないと思っています。そういった部分でサッカー界の育成哲学は非常に参考にしています。
──吉村さん自身はサッカーから何か取り入れている部分はありますか?
サッカーはハンドボールに、ハンドボールはサッカーに近づいているという考えが僕のなかにあるので、かなり取り入れて実践しています。
例えば、ハンドボールにはサッカーでいうスルーパスのようなパスを見ることは、これまでほとんどありませんでしたが、最近ではそういったパスも最高峰の舞台で見え始めています。パスの距離やエリアはもちろん狭いのですが、裏のスペースを意識した攻撃は増加傾向にあります。
そうなってくるとサッカーでいう3人目、4人目の動きだしの質が非常に参考になってくるので、練習前のミーティングでサッカーの映像を交えながら説明したりします。
僕自身、サッカーは好きで見ますし、サッカー指導者の方のセミナーにも参加したりします。
結局、サッカーやハンドボールに限らず、どの球技でも点を取るための戦術だったり、点を与えないための戦術が存在していると思います。
ただ、戦術というものはすぐにアップデートされるというのがスポーツ界の掟です。未来を常に見据えて指導していかなければ僕たちのアウトプットはどこかの国であったり、どこかのクラブの模倣になります。
それはそれである段階までは良いと思いますが、未来のハンドボールではないんですよね。日本人の国民性だと、どうしても同じ競技の最高峰の戦術を真似て時間をかけて完成することに特化してしまいます。
しかし、そうなった時ときにはすでにワールドスタンダードから比べると古いものになってしまっているというのが、ハンドボールでもサッカーでもいえることなのではないですかね。
だから、常にオープンマインドな姿勢で、それこそスポーツに限らず、さまざまなものからヒントを得て、新しいことを実践していくことが非常に重要だと考えています。
【了】
プロフィール
吉村晃(よしむら・あきら)
1984年10月30日生まれ。兵庫県出身。2013年から日本ハンドボールリーグ・豊田合成ブルーファルコンでヘッドコーチを務める傍ら、男子ハンドボールU-21日本代表のコーチも務める。2012年にはハンドボールの本場・デンマークにコーチ留学。自身のブログ(AY-COPENHAGENハンドボール化するサッカー)ではハンドボールとサッカーの類似性や戦術に関して執筆もしている。