疑心暗鬼だった浦和からの獲得オファー
もっとも、ゴールという結果以外に、武藤がレッズにもたらしているものがある。
豊富な運動量を生かしながら、前線のあらゆるスペースに顔を出してボールを引き込み、あるいは相手のボールホルダーにプレッシャーをかける。泥臭さを厭うことのない、前線における献身的な動きは昨シーズンまでのレッズに欠けていたものであり、ゆえに異彩を放っている。武藤の関係者が声を弾ませる。
「レッズはこれまで各クラブのエースや、ある程度完成した選手を獲得してきました。しかし、武藤はベガルタでもそこまでの存在ではなかった。いわば原石のような才能が、レッズという環境のなかで日々磨かれている。もっともっと輝きたいと誰よりも武藤本人が思っている。そうしたハングリーさが、武藤がスムーズにフィットした要因だと思っています」
流通経済大学から2011年シーズンに加入したベガルタでは、4年間でわずか6ゴールしかあげていない。昨シーズンこそ30試合に出場して4ゴールをあげているが、先発出場は16試合にとどまっていた。
確固たる居場所を築いていなかっただけに、11月に入って届いたレッズからのオファーを、ベガルタのチームメイトたちがなかなか信じなかった。
誰よりも武藤自身が、なかなか現実を受け入れられなかった。前出の関係者が振り返る。
「積極的な補強をしていたこともあって、『本当に自分を欲しいのか』という猜疑心があったことは確かです」
ダブルシャドーを担える選手だけでも、日本代表候補合宿に呼ばれたことのある石原直樹がサンフレッチェ広島から、U‐18代表に招集された実績をもつ高木俊幸が清水エスパルスから加入すると報じられていた。
翻って、武藤は年代別の日本代表に選出された経験がなかった。強いて挙げれば、大学時代に関東大学選抜Aに名前を連ねたことがあるくらいだ。