移籍金約4800万円も即チームの中心となった香川
ちょっとしたところに人間関係の素顔が垣間見えることがある。今季とあるドルトムントのホームゲームの後で、ミックスゾーンで香川真司が取材の受け答えをしていると、ユルゲン・クロップが通りかかった。
クロップが香川を軽く叩いてちょっかいを出す。
香川がはにかむ。
隠しきれないものが本音だとするならば、この一瞬に二人の間柄が素直に現れているようだった。
およそ5年前の2010年9月19日、ブンデスリーガ10-11シーズンの第4節、ドルトムントはアウェイでシャルケと戦う。19分、エリア手前の中央へドリブルで向かうと、香川は左足を振り抜いて先制する。
会心のゴールに、クロップはハイジャンプして拳を宙に叩きつけた。香川は58分に追加点を決め、3-1での勝利に貢献する。試合後にクロップは香川をこう評した。
「シンジ・カガワが非常に優れたサッカー選手だということは分かっていた。ただ、これほど早く順応するとは思わなかった。まだ21歳で、家族を母国に置いて通訳だけを連れてやってきた。しかし今、彼は歴史にその名を刻んでいる」
その年の夏、香川はブンデスリーガにやって来た。ドルトムントが35万ユーロ(約4800万円)の育成補償金を支払うことで、セレッソ大阪からの移籍は成立する。移籍金の額はチームの期待度の現れでもある。
もちろんドルトムントは香川の才能を見抜いた上で、熱意を持って獲得した。それでもお試し感があったことは否めない。しかしダービーでのブレイクは、クロップの想像を超えるものだった。
そしてクロップは香川の才能にますます惚れ込んで行く。キッカー紙がシャルケ戦の香川を「空に解き放たれた鳥」と評したように、躍動の香川は前半戦の全17試合に先発して8ゴールという結果を残した。