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Jリーグ 10年前

フル出場新記録樹立。広島DF水本を「鉄人」たらしめる3つの理由。恐怖心克服の裏にある“家族愛”

text by 藤江直人 photo by Getty Images

「毎日のようにサッカーができることが一番の幸せだと思えるようになった」

 病室で目を覚ました水本を襲ったのは、死に対する恐怖心だった。痛みを抱えたまま後半までプレーしたファイターも、頭蓋骨内で出血していたことの重大さは理解できた。生まれたばかりの長女もいる。家族のことを考えたときに、こんな思いが頭をもたげてきたという。

「もうサッカーができないんじゃないか」

 不安ばかりを募らせていた水本を奮い立たせたのが、サンフレッチェというクラブの後押しだ。FW佐藤寿人をはじめとして、何人もの選手やスタッフが病室を訪れては水本を叱咤激励した。

「入院中はいろいろと考えましたけど、当時の監督だったミシャをはじめとして、クラブが最高のサポートをしてくれたので」

 手術直後は夫人にネガティブな思いを打ち明けていたが、数日後には「やっぱりサッカーがしたい」と告げている。夫人はただひと言、「好きなようにしたらいいんじゃない」とだけ返してくれた。

 ヘッドギアの効能もあって、ヘディングで競り合うときに覚えていた一抹の不安も時間の経過とともに薄らいでいった。翌2012年からは、医師の了解を得てヘッドギアも外した。

 その年を含めて、毎年5月7日になると夫人がこんな言葉を水本にかけている。

「今日は何の日だか覚えている?」

 苦笑いしながら、水本が打ち明ける。

「今年もそうでしたけど、僕自身がけがをした日を忘れちゃうんですよ。嫁から聞かされて、今年だったら『もう4年も経ったのか』と思いましたよね。歳月を重ねるごとに、毎日のようにサッカーができることが一番の幸せだと思えるようになったんです」

 朝食を食べて、練習を積んで、週末の試合へ向けて心技体を練り上げていく。大好きなサッカーを中心としたルーティーンができあがり、2012年シーズンからのJ1連覇に貢献。日本代表復帰を果たしたアギーレジャパンに続いて、ハリルジャパンにもコンスタントに招集されている。

 いま現在に至る軌跡に対する感謝の思いが、水本の脳裏に巣食っていた恐怖心を駆逐したわけだ。

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