本物の「フェアプレー」とは何か
サッカーには「マリーシア」という言葉がある。ポルトガル語で「ずる賢さ」という意味だが、日本人選手にはよくこれが足りないと言われる。だが、この言葉には「機転」や「知性」といった意味もあり、決して悪い意味ではない。
この言葉の使い方を間違っている日本人が多いのではないか。駆け引きのうまさや、相手のわずかな隙を突くのが本来の「マリーシア」で、ルールの範疇にあるサッカーの魅力だ。「勝つために何でもする」という意味でこの言葉を理解しているのなら、それはただの「ずる」で、「賢さ」ではない。
岩下の行為はまさに「ずる」だ。擁護する余地は全くない。審判に気づかれなければ、勝つために何でもしていいということは断じてない。
Jリーグの村井満チェアマンは就任当初から以下のような「三つの約束」を掲げている。
1.笛が鳴るまで全力プレー
2.リスタートを速く
3.見苦しい交代をやめる
これらは古参のファンから「試合をつまらないものにする。時間稼ぎも勝つための手段だ」と大きな批判を浴びた。しかし、これは強要されるわけではないし、あくまでアクチュアルプレーイングタイム(ボールがピッチ内で動いている時間)を増やそうという試みだ。
その一方で、別の側面も意識させる。それは本物の「フェアプレー」とは何たるかをもう一度考えよう、というJリーグからの提示だ。勝つためならセルフジャッジで審判を誘導したり、セットプレーに時間をかけたり、必要以上に判定に抗議したり……といった行為を常にしていいというわけではない。
今回の一件は、多くのサッカーファンに「フェアプレー」とは何たるかを改めて考えさせてくれる機会になったことだろう。もちろん岩下は批判されてしかるべきで、Jリーグ内部以外に何かしらの検証が行われるべきだった。
これを読んで初めて事態を把握した人もいるに違いない。この一件やこのコラムが、多くの人にとって「フェアプレー」とは何か、もう一度考えるきっかけになれば幸いだ。
【了】